貴志祐介
講談社文庫(上中下)
『青の炎』,『黒い家』,『十三番目の人格―ISOLA』,『クリムゾンの迷宮』,『天使の囀り』,『悪の教典』,『ダークゾーン』
当代随一のヒットメーカー貴志祐介.氏の作品は傑作揃いだ.その中で本作品『新世界より』は最高傑作である.
現在TVアニメが放映中の本作.アニメ放送に伴い,改めて原作を読んだ.アニメを見ると,小説の会話もアニメの声で再生されるから不思議である.
さて本作は,1000年後の日本を舞台とし,そこからさらに1000年後の世界に向けた手記という形で語られる.
1000年後の人類は牧歌的な田園都市で暮らしている.豊かな田園にドボルザークの『家路』が流れる情景は,現代の我々には理想郷のように思える.
本作は超能力ものであり,1000年後の人類は全員が「呪力」と呼ばれる超能力を持つ.特徴的なことは,人は「愧死機構」という人に対して超能力を用いて攻撃できない仕組みを備えていることである.この「愧死機構」による攻撃抑制によって平和が保たれているのである.
人類全てが,核兵器以上の強大な武力を持つにもかかわらず,「愧死機構」によって平和が保たれるという構造がいかに危ういものか.そして,この社会の隠された秘密とは.ということが本作の主題である.
SFとは新しい世界像を描くことであり,想像力の挑戦である.
SFでは存在しない世界を語らなければならない.しかし,著者の想像の範囲の全てを文章に書かず,部分的に描写して,残りは読者の想像力やSF知識に投げられてしまうことが,SFではしばしば見られる.そのため,分かりにくくて読みづらいということが多い.
その点,本作は丁寧に想像世界が記述されている.この親切設計のために,作品が文庫で3巻と長いが,世界観を理解しやすい.分かりやすさは,娯楽小説では重要だ.気楽に楽しめなければ,娯楽じゃない.
貴志作品では,おなじみのハラハラドキドキのチェイサーサスペンスもしっかり入っている.
凝った設定,分かりやすさ,ハラハラドキドキ.貴志作品の全てが含まれた本作品は貴志祐介の集大成であり,最高傑作だ.
今なら,アニメのキャラが入った帯が付いて,本屋に平積みされているされているので,この機に是非読むべし.
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