2013年3月26日

『禁断の市場』

『禁断の市場 フラクタルで見るリスクとリターン』
THE (MIS)BEHAVIOR OF MARKETS: A Fractal View of Risk, Ruin, and Reward
ベノア・B・マンデブロ,リチャード・L・ハドソン
高安秀樹 監訳
雨宮絵理,高安美佐子,冨永義治,山崎和子 訳
東洋経済新報社
2008年6月初版

序文 孤高の科学者―ベノワ・マンデルブロ
第1部 たどってきた道
 第1章 リスクとリターン
 第2章 運命を決めるのは,サイコロか,弓矢か?
 第3章 バシェリエの功績
 第4章 金融工学の楼閣
 第5章 金融工学の落とし穴
第2部 新たな道
 第6章 市場の乱流―はじめに
 第7章 凸凹の研究―フラクタル入門
 第8章 綿花価格のミステリー
 第9章 長期記録―ナイル川から市場まで
 第10章 ノア,ヨセフ,そして市場のバブル
 第11章 トレーディング時間のマルチフラクタル性
第3部 これからの道
 第12章 禁断の金融10ヵ条
 第13章 実験室にて

フラクタル幾何学の創始者マンデルブロによる市場の挙動についての一般書.

本書で述べられている重要なことはこの1点.市場の挙動は,ブラウン運動のような正規分布では表現できず,フラクタル性を持っておりべき乗則で動いているということだ.正規分布の確率分布では起こり得ないことが,べき分布では起こり得て,実際に何度も起こっている.

これまでの金融工学は正規分布を仮定してきた.その土台がそもそも間違っているということは,従来の金融工学に頼ることの危険性を示している.現実,リーマン・ショックなんてのが起こったのだ.

さて,本書では市場の価格の挙動はフラクタル性を有していることが主張されているが,どうしてそうなるのかということには一切言及されていない.市場から出てくるアウトプットのみを眺めているだけだ.

最初の段階として,出てきたものを直視するというのが重要だ.金融工学はそういう基本的な態度がなっていなかった.次は,どうしてそうなるのかとうことだろう.『経済物理学の発見』『エコノフィジックス 市場に潜む物理法則』では,そのへんも言及されている.まだ,よくわからんみたいだが.外に現れている現象は似ていても,中で起こっていることは時代によって大きく異なっていそうだし,なかなかややこしい.

本書では,経済物理学という言葉は出てこないが,金融工学が間違っていても,わざわざ新しい名前をつけるほどのもんではないだろう.計量経済学と金融工学と経済物理学って一緒だろ,と思うのです.

 

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