2013年8月25日

『タイム・リープ あしたはきのう』

『タイム・リープ あしたはきのう』
高畑京一郎
電撃文庫
Kindle版
上下巻

タイムトラベルの分類』で書いたが,この小説はタイムトラベルもの新しい領域;同時代に同一人物がいない,かつ歴史改変がないということを実現したすごい小説である.『夏への扉』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『時をかける少女』という異なるタイプのタイムトラベルものが作中で言及されていたことから考えると,狙って実現困難な領域に挑んだのだろう.

同時代に同一人物がいないにも関わらず,歴史が変わらないということを実現するために,タイムリープする主人公:同じ時間を繰り返せないという設定を導入している.この設定が秀逸だ.事態を解決する際にも効力を発揮している.まだ,この時間を過ごしていないのだからと,パズルを埋めていくように解決していく和彦の手際は見事だ.

加えて,精神のみ時間を越える現象:タイムリープの回数の多さも特筆すべきことである.以下に,図にまとめてみた.ネタバレ含む.図をみるとこんがらがっていることがよく分かる.これだけの回数時間移動していても,破綻せずに物語を推進する著者の構成力は大変なものだ.伏線がタイムトラベルのものの面白さだが,この数のタイムリープが必要とされるように,伏線を散りばめているのだから驚く.

タイムパラドックスは全く起こらないし,歴史の改変も登場人物たちの努力によって意図して抑えられている.和彦の見出した歴史を改変させない条件;予備知識を与えないほうがいい;予備知識を得てしまった場合は実現する;予備知識のないことをして大丈夫ということはタイムトラベルものを読み解く上で重要な指標となるだろう.

TimeLeap1

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