2013年1月17日

映画『LOOPER』

『LOOPER』
監督・脚本 ライアン・ジョンソン
出演 ジョセフ・ゴードン・レヴィット,ブルース・ウィリス,エミリー・ブラント



 脚本が良くないと思った.『マトリックス』以来の衝撃!はウソやな.設定は面白いと思うのに,ハラハラ・ドキドキさせられなかった.
 舞台は2044年.未来だが,荒廃している.そして,そこにはルーパーと呼ばれる職業があった.主人公ジョーはルーパーである.それはさらに30年後の未来から送られてくる人を殺す仕事.30年後の2074年にはタイムマシンが発明されている.しかし,タイムマシンは違法である.タイムマシンを使うのは犯罪組織だ.30年後にて人を殺すのは原理的に不可能となっている.そこで未来の犯罪組織は殺したい人を拉致して,目隠しをし,動けない状態にしてタイムマシンにて過去に送るのだ.2044年にてルーパーが暗殺対象者待ち構えている.場所と時間が指定されており,ルーパーは送られてきた未来人を転送直後に撃ち殺すのだ.暗殺対象者には銀塊が添えられており,ルーパーは死体を処理して,報酬として銀塊を受け取る.30年後のルーパー自身が転送されてきた時も,例外なく処刑しなければならない.しかし,その場合は金塊が添えられている.ルーパーに自分を殺させることをループを閉じるという.
 この設定が問題を含んでいないか.まず,ルーパーの仕事は簡単過ぎるだろう.定められた時間と場所にいって,身体を拘束され,転送されてきた未来人を処刑するだけ.ただ来たものを撃つだけで,遺体の処理の方法さえ確立していれば,未来人の殺害が発覚するわけもなく,罰を受ける恐れもない.この時代の銀塊の価値が不明だが,報酬も悪いわけではなさそうだ.
 そして,自分自身を殺す場合は金塊が貰える.それが悲劇的であるように言われていたが,すごく良心的だと思った.この先30年生きることは保証されていて,大金が得られる.迷わず殺すだろ?荒廃した町に住むギャングだ.通常なら使い捨てにされ,ボロ雑巾のように打ち捨てられるものだ.それが大金を貰えて,生存も保証されて.何を迷うことがある.過去のルーパーは未来のルーパーを殺せるが,未来のルーパーは過去のルーパーを殺せない.未来のルーパーが消えてしまうからだ.この非対称性によって追いつ追われつのサスペンスも起こり得ない.
 30年後の闇社会は「レインメーカー」という人に牛耳られている.レインメーカーは全ての元ルーパーを過去に送り,ループを閉じようとしている.それがどうしたと思わずにはいられない.元ルーパーたちは,過去に莫大な報酬を貰い自分を殺しているのだ.30年経って何を今さら抵抗しているのか.おかしな話だ.レインメーカーはわざわざ金塊を添えてルーパー達を転送してくるのだ.すごく良心的で,悪の権化とは思えない.レインメーカーの悪行の描写も一切無く,なぜこいつを殺す必要があるのかさっぱり分からない.
 タイムトラベルの話では,歴史の改変というのが重要な問題だ.歴史の改変をどう取り扱うか.世界線は一本なのか.並行した複数世界なのか.過去は一本で鍵となる出来事によって複数に分岐していくのか.未来からやってきたオールド・ジョーは,歴史の改変を目指すが,時間軸がどうなっているのか説明されていないので,彼のしていることが妥当なのかさえ疑わしい.物語内で矛盾しているのではないかとも思える.
 ラストも,これはネタバレになるから詳細は控えるけど,すっきりしない.動機がないと思えるのだ.前述したように,別にええやん.一切の問題は現在においては生じていない.ヤング・ジョーもそのスタンスだったはずだ.急に心変わりされても,納得出来ないな.
 最後にレヴィットの30年後がウィリスってのは無理がある.ジョーが徐々に老いていく描写があるが,ハゲ散らかす前のウィリスの姿は笑けてしまった.

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