野村秋介
廣済堂
感傷的序文
第一章 社会の縮図としての刑務所
第二章 右翼と任侠
第三章 任侠人の虚像と実像
第四章 マニラ燃ゆ
第五章 獄中句集「銀河蒼茫」
句集「銀河蒼茫」に想う――四宮正貴
俺に是非を説くな 激しき雪が好き強烈な自意識を放つこの歌に衝撃を受けた.この歌を詠んだ野村秋介に興味を持った.
見城徹の『編集者という病い』が私と野村秋介の出会いのきっかけだった.見城氏の本は面白くはなかったが,野村秋介を知ることができたから,読む価値はあったのだ.
野村秋介の句集『銀河蒼茫』がAmazonでも見当たらない.どうにかして手に入れたいのだが,どうしたものか.
野村秋介の歌は上手くはない.荒削りだが,歌からにじみ出てくる熱量と信念の強さが,心を打つのだ.パンクロックを聴いた時の高揚感と似ているかもしれない.
本書は刑務所内で出会った人々や交流のあったヤクザについて,そしてフィリピンでのエピソードについて書かれている.
この人は右翼なのか.安重根を尊敬していると言っているし,在日朝鮮人に対しても好意的だ.昨今のネトウヨとは随分異なる.右翼的な思想の人の本はこれまで読んだことがことがなかったので,意外に思えた.
だが,実際のところ,右翼の思想には全く興味がないので,どうでもいいことだ.
それに野村氏は,思想よりもセンチメンタルなロマン主義が行動の動機のように思える.
宣伝カーに乗って,反共だとか何だとか言ってやるのが右翼だというように誤解されますけど,そうじゃなくて,あくまでも男のロマンを燃焼させるために青春を駆け抜けるというのが,民族運動の原点だと僕は思うんです.自身を坂本竜馬になぞらえて世の中を変えようとしている人たちがしばしばいる.北方謙三の『水滸伝』で言うところの『志を志す』.ロマン自体が目的の自己への陶酔.それは,左翼も右翼も変わりのないことだ.
(p.270)
たまたま,野村氏がヤクザから入ったので,任侠に近い右翼活動に流れたのだろう.本書では任侠と右翼は違うと言っているが…….大学に行ってれば,左翼になっていたかもしれない.周囲の環境がそうさせたに過ぎないと思う.
私は坂本竜馬が好きと言っている人が大嫌いだ.なぜ嫌いかといえば,私にもそういうところがあるからだろう.青春パンクロックとかいつ頃からかすごく嫌いになって,聴かなくなっていたのに,野村秋介の歌に心揺さぶられている.変わってないなと少し恥ずかしくなった.
筆者はヤクザに好意的で,人によっては大変魅力的だと言っている.任侠という表現が,そちら側からの視点だ.近いところから見れば上の方の人は確かに魅力的かもしれないが,だからってヤクザが認められるものではないだろう.時代も違うし,当時は任侠道なんて残存していたのだろうか.
幕末の志士のような生き方をした人がいたということが驚きだ.今年は二〇回忌だ.自身は正義のために行動しているのだが,社会的に見ればすごく迷惑な人だ.犯罪は認めないが,ロマンのために戦う生き様は憧れるし,それを歌った彼の俳句は魂を揺さぶる.
0 件のコメント:
コメントを投稿