『投資家が「お金」よりも大切にしていること』
藤野英人
星海社新書
2013年2月初版
はじめに
第1章 日本人は,お金が大好きで,ハゲタカで,不まじめ
第2章 日本をダメにする「清貧の思想」
第3章 人は,ただ生きているだけで価値がある
第4章 世の中に「虚業」なんてひとつもない
第5章 あなたは,自分の人生をかけて社会に投資している,ひとりの「投資家」だ
ファンドマネージャである藤野氏が,消費・投資・事業について考えたことについての書.
価値観や考え方といったものが多い.そういうのは考えるのも面白いし,人に語るのも楽しいものだ.しかし,そこから得られるものは少ないことが多い.しかし,この本からは考えることが多かった.
私のいい本の基準は,情報の多さ・興味深さや,考えの妥当性もそうだが,最も重要視するのはその本をきっかけに思う所が多いか否かだ.なので,書いてることが間違いだらけの本でも思う所が多ければ価値があるとみなす.
本書は,考えを深めるのに有用であった.言っていることは,すごく斬新というわけではない.こういう人はこういう考え方もするだろうと予想される範囲のことだ.しかし,普段考えていることに対する一つの観点からの回答であるので,考えが広がった.
日本人一般のお金に関する価値観についての意見には同意する.額に汗してとか,一体何をいわんや.堀江貴文へのマスコミの手のひら返しの非難は,思い出しても不愉快だ.報道を信じなくなったきっかけだ.株を買い占められるのが嫌なら,はじめから上場なんてしなければいいのだ.
相場師は昔からいたし,寄付もあったと思うのだ.大阪の中之島公会堂なんかは相場師の寄付で作られたのは有名な話だ.紀伊国屋文左衛門だって,教科書に載るほど尊敬されているのだ.本書にあるような日本人のお金への感覚は,おそらく近年になってのものだと思われる.日本人の美徳とか言われても,本当かなと疑う.
経済活動と事業の関係については,納得できていない.町の定食屋が消え去って,全て松屋になってしまうことを苦々しく思っている.そうなるのは,消費者が求めているからだというのは,確かにその通りだと思う.個人経営の喫茶店や定食屋に行くようにはしているが,値段も高いしついついチェーン店に行ってしまう.そして,個人経営の定食屋に投資をするかと訊かれれば,投資はしない.チェーン店に投資をするだろう.町並みが均質化するのを嫌っていても,世の中の流れに逆らうことはできない.そして,逆らわない態度が,嫌いな流れを加速させる.経済にはポジティブ・フィードバックが加わるのだ.はたして,社会の潮流に乗ってお金を得ることが,社会に本当に価値を提供していることになっているのか?疑問が解けない.
ブラック企業に関しても,悪いものがポジティブ・フィードバックされている.「ありがとう」と声をかける紳士な客になる程度なら何も失わないが,会社を経営するならブラックな振る舞いをする方が合理的だ.社会のありようが間違っていたとしても,逆らえない.
iPhoneなんかが売れる社会がバカバカしいと思っても,売れるものは価値があるのだ.社会的価値を決めるのは市場であって,私ではない.しかし,私の消費は自分で価値を設定できる.この齟齬に関して悩んでいる.
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