『高い城の男』
"The Man in the High Castle"
Philip K. Dick
浅倉久志 訳
ハヤカワ文庫SF
最近ディックにハマっている.『流れよわが涙,と警官は言った』,『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』をこれまで読んだ.
今回読んだのが,本書『高い城の男』.ディックの最高傑作だそうだが,私にはそこまで楽しめなかった.読むのにずいぶん時間がかかってしまった.
歴史改変のSFである.第2次世界大戦で枢軸国が勝利した世界を描いている.本書の何が楽しめなかったのかと考えると,この世界に違和感を感じることがほとんど無いからだろう.SFに期待するものは,現実とは異なる斬新な世界観であったり,それによって生じる哲学的思索だったりする.しかし,本書の世界は,あまりに普通で違和感なくあるから,特に新しい考えを得たりしなかったのだろう.
もちろんそういうのが全くないわけではなくて,本書のテーマは現実と虚構だ.小説の世界は当然虚構の世界だが,小説の世界で小説に描かれる虚構世界として,この現実世界があるという2重の現実と虚構の構造になっている.虚構世界に違和感がないから読んでいて,何が現実で何が虚構がごっちゃになってくるのだ.あれ?今私がこの小説を読んでいる世界が,小説上の世界で,本書の世界が現実ではなかろうか?と.現実と虚構が交錯する感覚が本書の面白さなのだろう.
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