2013年2月27日

『将棋の歴史』

『将棋の歴史』
増川宏一
平凡社新書
2013年2月初版

序章 将棋伝来の謎を探る
一、海のシルクロードから日本へ
二、中国伝来説を覆す
第一章 中世に栄えた将棋の源流
一、最古の出土駒
二、平安時代の将棋記録
三、変化をとげる将棋
四、貴族の学ぶべき教養の一つ
五、戦国武将と将棋―爆発的な普及
六、宋桂登場
第二章 職業として認められた江戸時代
一、将棋指しの実力
二、将棋家の確立
三、幕府御用達となった将棋三家
四、勝負事であるがゆえの段位
五、免状と名人
六、活躍の場を広げる門人達
第三章 宗家十二代「大橋家文書」による真実
一、大橋家文書と詰将棋集献上
二、御城でおこなわれた対局
三、奥御用―将軍家治の将棋指南
四、将棋家の収入と相続
五、手紙類―賭将棋の禁止
六、大橋家文書の虚偽
第四章 近代化がもたらした繁栄と衰退
一、幕末の将棋事情を探る
二、明治維新による将棋家解雇と自立
三、明治前半期―再び盛んになった将棋
四、明治後半期―新聞連載による収入増
五、大正期と昭和前半期―職業として確立した時代
六、将棋にも及んだ戦争の悲惨な影
第五章 戦後の復興から未来へ
一、焼け野原からの船出
二、再隆盛を極めた将棋
三、薄れる将棋への関心
四、次世代への積極的な働きかけ
五、チェスに学ぶ将棋学への提言

タイトルの通り,将棋の歴史について最新の研究結果を取り込みつつ概説した本である.『盤上の夜』で,チャトランガの成立に触れられていて,将棋の歴史に興味をもったので読んでみた.

将棋の起源については,以外と分かっていないということを知った.チャトランガ→象棋→将棋という説がよく知らてているため,私もそうだと思っていたが,著者はその説には否定的である.著者は,チャトランガが中国に伝えられ象棋となったルートとは別のルートで将棋は日本に伝わってきたという意見だ.

こういう考古学の範疇に入る,文献にも残っていないようなことは,よく分からないのだと改めて思う.邪馬台国の位置とかもそうだけど,議論する材料のない中での論争って意味あるのかとつい思ってしまう.分からないから論争するわけだが,妄想と過剰な推論の上に立った怪しげな議論をしているとしか思えないのだ.

将棋の原型ができたのちに,今のルールになるまでの過程というのを見て,現在の大富豪というトランプゲームを連想した.様々なローカルルールが考案されて,最も面白いものに集約されていくという過程はどのゲームでも同じなのだ.大富豪が今後も行われるのかは分からないが,将棋の持ち駒のように画期的なルールが登場するようなことがあれば面白い.

第三章には,新たに見つかった「大橋家文書」という資料から明らかになったことが述べられている.江戸時代は将棋は家元制だったわけだが,将棋の家元というのも大変そうだ.特に,本書で指摘されている虚偽が含まれている部分などは,地位を維持するための涙ぐましい努力が見られて,興味深い.

文献学って「大橋家文書」にもあるように虚偽が含まれているから面白い.資料に載っていることが全てではなくて,文献の書かれた背景などによって,虚偽や誇張が含まれていて,そこから正しいことを読み解いていかねばならないのだ.

明治以降のことは,よく分かっていることなので,歯切れもよい.気になるのは,将棋の今のスポンサーは新聞社だが,今後新聞の影響力が下がっていくと,将棋の資金面は誰が支えるのかということだ.愛好家の人口も減りつつあるし,将棋の未来はどうなるのだろうか.

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