高木徹
プロローグ 二つの破壊
第1章 隠遁者
第2章 姿の見えないカリスマ
第3章 オサマ・ビンラディン
第4章 大仏・第一の危機
第5章 オマルの激怒
第6章 ビンラディンの贈り物
第7章 「アメリカ」の衝撃
第8章 ムタワキルの抵抗
第9章 アメリカ帰りの新制作
第10章 ビンラディンのメッセージ
第11章 密使
第12章 破壊を阻止せよ
第13章 アッラー・アクバル
第14章 届けられたテープ
エピローグ 大仏は,なぜ破壊されたのか
アフガニスタンのバーミヤン大仏爆破.タリバン政権とアルカイダがこの蛮行に至った経緯を描く.
本書では,オサマ・ビンラディンはカリスマ性をもった悪の権化で,タリバンとアフガニスタンはビンラディンに食い物にされた一種の被害者して同情的に描かれている.
当初のオマル率いるタリバンは,無秩序で荒廃した祖国を憂い,正義と平和のために立ち上がった義勇兵だった.素朴で無知で無教養な義勇軍というのは,ややステレオタイプから見ているのではないかという印象をもつ.重要な点は,イスラム教以外を恨み国際的なテロを行う集団ではなかったということだ.イスラム原理主義を語れるほどイスラム教の学問にも精通しているわけもなかった.
すべての元凶はビンラディンである.タリバンの無知な人々とビンラディンがくっつくことで最悪なことが起こってしまったのだ.当初,ビンラディンは故郷を追われ行き場を失いアフガニスタンに流れ着いたに過ぎなかった.
居候にもかかわらず勝手にアフガン国外でテロを起こして,タリバンに迷惑をかける.ビンラディンは疫病神以外の何者でもない.しかし,タリバンは財力と武力を提供され,また道義からも彼を追い出すことはできなかった.
タリバンにも国際的な人権や文化を理解する人がいたものの,タリバンはビンラディンの考えが支配的になってしまう.
そして,大仏は破壊され,同時多発テロ,その後のアフガン戦争へと続いていく.
タリバンの指導者ムハンマド・オマルについては人となりがほとんど分かっていないため(現在の消息も不明),ビンラディンがオマルを懐柔してしまうという本筋となる部分が不明瞭なのが残念である.
オマルが末期には現実を直視していない様子は印象的だ.地元の平和のために立ち上がった義士が,最後には地元の人が望まないような暴挙に至るまでの変遷は興味深い.
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