2012年12月15日

マンガ『3月のライオン』8巻

『3月のライオン』8巻
羽海野チカ
ジェッツコミックス



 現在連載中の内,最もおもしろいマンガ.
 棋士の世界が舞台.勝負の世界での織り成される人間模様が本作の主題である.
 
 将棋のマンガといえばヤングジャンプで連載中の『ハチワンダイバー』がある.あちらは『グラップラー刃牙』のような格闘マンガに分類するべきものだ.将棋はスポーツだから,盤上での闘争をマンガ的に描いているハチワンの方がちゃんと将棋をしている.
 一方,本作に登場する人々は,盤外でウジウジ悩んでばかり.メラメラと燃え上がる闘争本能なんてほとんど感じさせない.歯を食いしばって,悶え苦しんでばかり.重いんだよ.でも,それが魅力.
 
 本巻では,主人公桐山零と宗谷冬司名人との記念対局,そして島田開と柳原朔太郎棋匠との棋匠戦が描かれる.

 宗谷名人.超然とした天才のステレオタイプなキャラクターである.
 ぼんやりとしていて会話でのコミュニケーションに難あり.本巻では,宗谷が難聴で音が聞こえなくなることがあるという秘密が明らかになる.しかし,それで困ることもなし.精神は全て将棋盤の上にいるのだから.盤上でのみ交流が可能.
 宗谷との将棋を通したコミュニケーションは心地良いものだった.将棋以外に逃げ場所のなかった零.その先に出会った将棋の神様は,零に将棋の面白さを伝えてくれたのだろうか.

 一方,柳原棋匠.66歳.現役最年長の老戦士.戦い続けること.戦線から去りゆく仲間たち.たくされる「たすき」にがんじがらめにされる重み.
 老いてこそ人生.戦い続ける人のかっこ良さ.そうありたいものだ.
 しかし実際,戦い続ける人というのは人の期待とかより,自分のための惰性が動機だと思う.続ける苦労より退いて失うものの方が大きい.呼吸をするように闘っているから,苦しみももはや感じない.それだけのことだろう.

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