2012年12月20日

マンガ『ヒカルの碁』

『ヒカルの碁』
ほったゆみ 原作
小畑健 作画
ジャンプ・コミックス




 歴史上存在したマンガの中で最も面白い.最強のマンガ.
 ニコニコ動画でアニメの放送をしていたので,また読み返してみて,希望と興奮と多幸感に体が包まれた.

 碁のマンガで知られているのはヒカ碁が唯一だ.碁は動きが少ない.また,石を擬人化して攻防を表現する事もできない.碁はマンガのテーマになりにくいのだ.
 小畑健は構図の力を用いて,本来なら動きのないはずの碁の試合に緊張感を与えている.小畑は動かない絵なら今や無敵だ.ヒカルの碁で最も成長したのは小畑の画力かもしれない.石を置くだけのシーンも構図が上手ければ紙面を支配できるのだ.紙面が絵によって支配されていると,絵の中に吸い込まれる.絵の力は臨場感だ.

 これは成長を描いたマンガだ.
 週刊少年ジャンプの3原則「努力」「友情」「勝利」は,要するに少年の成長の3要素だ.
 特に『ヒカルの碁』では友情が大きな要因となっている.進藤ヒカルは周囲の人たちに恵まれた.マンガのキャラクターを羨ましがるのもおかしな話だが,羨ましくなるほど周囲の人達に導かれて成長していく.碁の神様に祝福された運命の少年が進藤ヒカルである.
 努力はするが,それも周囲の人達のおかげだ.また,勝利に至ってはヒカルは負けていることの方が多い.
 このマンガの魅力というのは,人間の魅力だ.挙げていけばきりがないほど,魅力的な人々ばかり.そして誰もがヒカルの成長のために神が遣わせた人々なのだ.ダケさんも岸本も.特に加賀がいいな.
 羨ましい.どうして私の家の碁盤には佐為が宿っていなかったのか.どうして私の前には塔矢アキラが現れなかったのか.運命を呪わずにはいられない.運命にはどうしても抗えない.
 
 感動で震える場面は枚挙に暇がない.
  • ヒカル(佐為)に恐れ震えながらも,立ち向かってゆく塔矢の姿
  • 加賀がヒカルに三面打ちをさせて,ヒカルの背中を押すところ.三谷の聞こえない言葉.
  • ヒカル(佐為)と対局して,門脇がヒカルに尊敬を覚え,門脇の目が覚めたところ.
  • 消えた佐為をいくら探しても見つけられないヒカルが,碁を辞めかけた時,伊角との対局で自分の棋風の中に佐為を見つけたところ.その後の塔矢とのやり取り,桑原本因坊の言葉.
  • プロの手合いで塔矢とヒカルの戦いで,塔矢がヒカルの中の佐為を見つけたこと.
  • 神の一手は俺が極めるとヒカルが宣言したところ.
マンガとして驚くべきことは,最初から最後まで物語の構成上不必要な話が全くないということだ.連載をつづけるためにダラダラと伸びていく他のマンガとは全く違う.一直線に進んでいく.一話一話が濃密だ.
 
 真似をしたくなる必殺技もしっかりある.「右上隅小目!!!」.専門用語で雰囲気を出している.碁を知らなくても,ここに打ちたくなってしまうのだ.「かめはめ波」「二重の極み」みたいなもんだ.

 『ヒカルの碁』には,少年マンガに求めるものが全て入っている.これ以上のマンガが今後出てこようか.ほったゆみ,小畑健のペアでもう一度連載を始めてくれないだろうか.

0 件のコメント: