2012年12月29日

『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』

『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』
クリス・アンダーソン
関美和 訳
NHK出版

第一部 革命
第1章 発明革命
第2章 新産業革命 ウェブ世代がリアル・ワールドに目を向けるとき.
第3章 未来の歴史 マンチェスターとイギリスの家内工業に起きたことは世界を変えた.それは再び世界を変えるだろう.
第4章 僕らはみんなデザイナー だれでも上手にデザインできる時代がやってきた.
第5章 モノのロングテール 大量製品に飽きて自分だけのものが欲しくなったら?
第二部 未来
第6章 変革のツール 3Dプリンタは,なんでも生み出す魔法の杖になる.
第7章 オープンハードウェア 顧客が製品開発を手伝った上にお金まで払ってくれる?そう,ビットを与えれば,アトムが売れる.
第8章 巨大産業を作り替える 自動車産業は,製造業の中の製造業.もしこの巨大産業を変えることができるなら,なんだって変えられる.
第9章 オープンオーガニゼーション もの作りの革新は会社組織の革新から.
第10章 メーカーズの資金調達 製造の終わりと販売の始まりの境界線はどこにあるのだろう?メイカー市場には,境界など存在しない.
第11章 メイカービジネス 趣味を本物のビジネスに.
第12章 クラウド・ファクトリー もの作りがオンライン化すると,すべてが変わる.
第13章 DIYバイオロジー メイカーの究極の夢,それはプログラムできる物質を作ること.自然の造形物はみなそうだ.
エピローグ 製造業の未来 西側先進国は復活できる.
付録 二一世紀の工房 さあ,メイカーへの第一歩を踏み出そう.
 『FREE』,『ロングテール』のクリス・アンダーソンの最新作.装丁が格好いい.単行本はかさばるけど,こういうのがいい.
 私がぼんやりと思っていたことが,深く考えまとめられていた.思考の整理になった一冊.

 大学生の時分,機械工学を学んでいたものの,大学の授業では何も作らない.だから,課外活動で3DCADで設計して,工作機械を使って製造するということをしていた. 機械加工は訓練が必要で,しかも面倒だった.全くの素人がやってもなかなか思うものはできない.
 しかし,コンピューターの上で行う設計はすごく簡単だった.3DCADを用いれば,いとも簡単に機械部品の設計ができてしまう.部品同士の干渉も起こらない.CADデータからFEMのソフトで強度解析までできてしまう.力学の知識もなく,中で何の計算をしているのか分かっていなくても,ちゃんと壊れなくて,動くものが設計できるのだ.知識も技術も要らない.
 CADのような設計支援ツールが整った現在,機械の設計は限られた人のスキルとは呼べないのではないか.設計はホワイトカラーの仕事のようだが,製造業では明らかに生産設備の方が大切にされている.大切でなさそうで,しかも誰でも簡単にできそうなことを仕事としてするのは,危険ではないか.そう思って機械メーカーには行かなかった.

 テクノロジーは,専門職とそうでないひとの差を埋める.専門職の価値は下がる一方で,一般人の力は押し上げられる.
 工作は楽しいが,趣味でするには日曜大工かプラモデルが限界というのがこれまでだった.バザーで売っているような手作りのものは,既成品よりクオリティが低いのが常だった.
 しかし,3Dプリンター,CNCが一般の手の届く価格になればこれが大きく変わる.
 設計はCADで誰でも簡単にできるが,問題は生産方法だった.卓上旋盤やボール盤だけでは簡単な形しか作れない.複雑な形のものをつくるには非常に高価な装置が必要だった.趣味でするには,気合の入った趣味で,お金も時間も場所も必要だった.
 だが今,3Dプリンタがかつてはありえないほど安くなった.本書でも紹介されているMakerBot社の"Replicator2"がなんと$2,199だ.20万円以下で3Dプリンタが手に入るなんて誰が予想したろう.5年ほど前,ラピッドプロトタイピングで一つサンプルを作ってもらうのに何十万円もかかると聞いて驚いた記憶があるが,まったく隔世の感だ.コンピューターがみるみる安くなったように,3Dプリンタも安くなっていたのだ.
 製品をつくることの敷居が非常に低くなった.技術は底上げされ,お金もかからない.製造業が民主化されたのだ.
 本来,作ることは面白いことだ.しかし,生産設備を製造業が独占しているために,一般人は参入できなかった.もうそんな参入障壁はない.誰でもすぐに製造業を始められる.面白いという動機でだ.
 面白い部分を一般の人が持って行ってしまったら,製造業の仕事は面白くない部分しか残らない.製造業がますます面白くなくなるのではないかと危惧する.

 本書の後半は,起業ということについて書かれている.これは日本では当てはまらないだろう.特に資金調達の部分だ.日本には起業文化はない.寄付の文化もない.こういうのを見るとアメリカは夢のある国だ.夢しかないとも言える.希望だけがない日本とは対極だ.

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